妊娠を希望する多くのカップルにとって、不妊治療は大きな一歩です。その中でも「排卵誘発剤」は特に重要な治療手段の一つです。従来、クロミフェン(クロミッド)が広く使用されてきましたが、近年では「レトロゾール(フェマーラ)」という薬剤も使われます。
レトロゾールは本来、乳がん治療薬として開発されたアロマターゼ阻害薬ですが、排卵障害に対する新たな治療法として多くの国で使われるようになりました。今回は小田原マタニティクリニックより、不妊治療におけるレトロゾールの役割や効果、安全性について詳しく解説します。
レトロゾールの作用
まずは、レトロゾールの作用について見ていきましょう。
アロマターゼ阻害によるエストロゲンの抑制
レトロゾールは「アロマターゼ阻害薬」に分類されます。アロマターゼとは、体内で男性ホルモン(アンドロゲン)を女性ホルモン(エストロゲン)に変換する酵素です。これを阻害することでエストロゲン濃度を一時的に低下させ、卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を促進します。結果的に、卵巣が刺激され排卵が促される仕組みです。
排卵率の改善と自然妊娠率の向上
レトロゾールは、特に排卵障害のある多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の女性において高い効果を発揮します。複数の研究では、クロミフェンと比較して自然妊娠率や排卵率が同等またはそれ以上であることが示されています。
レトロゾールの使用方法と投与スケジュール
続いて、レトロゾールの使用方法と投与スケジュールについて見ていきましょう。
基本的な使用スケジュール
通常、レトロゾールは月経開始の3〜5日目から1日1回、2.5〜5mgを3日間服用します。その後、卵胞の発育を超音波で確認し、排卵のタイミングを見極めます。当院は自然周期のため、点鼻スプレーで排卵を誘導します。また、妊娠判明後のレトロゾールの服用は厳禁で、推奨されません。排卵誘発に用いる薬剤であるため、妊娠が成立したら速やかに使用を終了します。
人工授精や体外受精との併用
タイミング法だけでなく、人工授精(AIH)や体外受精(IVF)においても、卵胞の数を調整する目的でレトロゾールが用いられることがあります。卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが低いという利点もあります。
レトロゾールの副作用と安全性
続いて、レトロゾールの副作用と安全性について見ていきましょう。
副作用の傾向
レトロゾールは一般的に副作用が少ないとされますが、以下のような症状が報告されています。
- 頭痛
- めまい
- 倦怠感
- のぼせ
- 関節痛
これらは一過性であることが多く、クロミフェンに比べて子宮内膜の薄化が少ない点でも優れていると評価されています。
クロミフェンとの違いと使い方について
続いて、クロミフェンとの違いと使い方について見ていきましょう。
子宮内膜や頸管粘液への影響
クロミフェンはエストロゲン受容体拮抗薬として作用するため、子宮内膜を薄くしたり頸管粘液の分泌を抑える副作用があります。一方、レトロゾールはエストロゲン濃度を一時的に下げるだけなので、これらの副作用が少ないという点で利点があります。
クロミフェン抵抗性の代替薬
クロミフェンに反応しない「クロミフェン抵抗性」の排卵障害患者には、レトロゾールが代替薬として選択されることがあります。特にPCOSの女性にとっては、第一選択薬となることも珍しくありません。
まとめ:不妊治療におけるレトロゾールの役割とは?
いかがでしたか?今回の内容としては、
- レトロゾールはアロマターゼ阻害薬として排卵を促す不妊治療薬
- クロミフェンに比べて子宮内膜や頸管粘液への影響が軽い
- PCOSなど排卵障害のある女性に特に有効
以上の点が重要なポイントでした。レトロゾールは近年、不妊治療の現場で広く使われており、従来の排卵誘発剤に代わる選択肢として注目されています。主治医と相談し、身体に合った治療法を選ぶことが、妊娠への近道となるでしょう。